トレーナーの石黒です!今回は応急処置の新常識についてお話させていただきます。ケガをしたらまず冷やす、痛くなったらとりあえず冷やす、そうしていた方はは多いと思います。当たり前のようにしていたこの”冷やす”という行為に対して、近年疑問符がついてきました。応急処置の常識が変わってきていますので、その変化も含めてご紹介します!
1. はじめに
スポーツや日常の怪我(捻挫や肉離れなど)に対する初期対応の考え方が、近年大きく変化しているのをご存知でしょうか。「とりあえず冷やして安静にする」という処置は、今や見直されつつあります。長年親しまれてきた従来の処置法から、最新の知見である「PEACE & LOVE」へのアップデートについて分かりやすく解説します。
2. 従来の応急処置とその変遷:RICE・PRICE・POLICE
怪我の応急処置として長年スタンダードとされてきたのが「RICE」です。1978年にGabe Mirkin医師が提唱したもので、怪我直後の痛みや腫れを抑えることに主眼が置かれていました。しかし、提唱者本人が2015年に「過度のアイシングや完全安静は回復を遅らせる」として撤回を表明しました。
応急処置法は時代とともに次のように進化を遂げています。
| 処置法 | 主な内容と進化の背景 |
| RICE | Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)を行う従来の基本対応。 |
| PRICE | 二次損傷を防ぎ患部を守るため、Protection(保護)を追加。 |
| POLICE | 完全安静による回復遅れを防ぐため、Optimal Loading(最適な負荷)を追加。 |
従来の対応は「直後の症状緩和」を中心に捉えていましたが、ただ冷やして休ませるだけでは不十分であることが明らかになってきたのです。アイシングをすると神経の興奮を収めて痛みが引く感覚があるので、それを狙って冷やしていたわけですね!
3. 最新の知見「PEACE & LOVE」とは?
2019年に『British Journal of Sports Medicine』誌で提唱された最新コンセプトが「PEACE & LOVE」です。従来の処置との最大の違いは、怪我直後の応急処置(PEACE)から回復期のリハビリ(LOVE)までを一連の流れとして捉える点にあります。なんだかとてもハッピーな名前ですね。よくラブ&ピースなんて聞きますが、この応急処置法は一時的な痛みの緩和でなく、先を見据えて早く治るための考え方になっています。名前の通り、ケガをした人がハッピーになっていきますね!
ここで「I(アイシング)」が外れたのは、「炎症は組織修復に必要な自然なプロセスである」という最新の医学的知見に基づきます。治癒に必要な「炎症」と液体の停滞である「腫れ」は別物です。自然な治癒(炎症)を阻害するアイシングが外れる一方、不要な腫れ(液体の停滞)を抑える「圧迫(C)」や「挙上(E)」が維持されている点が大きな特徴です。
炎症と聞くと悪いイメージばかり浮かびますが、実はケガを治すために必要なものなんですね!しかし、アイシングは不要と決めつけるにはまだ早いです。2023年に発表された研究では、軽微な筋損傷(筋線維全体の4%ほど)ではアイシングが組織の再生を促すことが示されました。この研究では一日3回、1回あたり10~15分を3日間継続すると良いと報告されています。一方重篤な損傷(20%以上)の場合は組織修復を阻害すると示されています。アイシングは完全に否定されたわけではなく、ケガの重症度に応じて必要性を見極めることが大切です。
4. 【怪我直後の対応】PEACEの解説
では、実際に怪我をした直後の急性期に対応する「PEACE」の具体的な内容をご紹介していきます。
- P(Protect / 保護): 痛みの原因となる負荷を減らし患部を守ります。ただし長期間の休みすぎは避けます。
- E(Elevate / 挙上): 患部を心臓より高く上げ、血流の停滞や腫れを最小限にします。
- A(Avoid anti-inflammatory drugs / 抗炎症薬・アイシングを避ける): 組織の修復を遅らせる抗炎症薬や過度なアイシングを避けます。
- C(Compress / 圧迫): テーピングや包帯で適度に圧迫し、過剰な腫れを抑えます。
- E(Educate / 教育・指導): 過剰治療(不必要な画像診断や薬物療法)のリスクを伝え、自主的な回復を促します。

5. 【回復期のケア】LOVEの解説
怪我から数日が経過した回復期には、機能回復に向けた「LOVE」へ移行します。多くのケガは受傷後72時間ほどで組織修復のための回復期に移行するといわれています。
- L(Load / 適切な負荷): 痛みや腫れが増えない範囲で徐々に負荷を増やし、組織の再生を促します。
- O(Optimism / 楽観的な思考): 前向きな思考を持ち続けることで回復速度を高め、慢性痛リスクを減らします。
- V(Vascularization / 血流促進): 損傷3日目頃から、1日2回、各20分以内を目安に痛みのない範囲で有酸素運動を行い、患部への血流を促します。
- E(Exercise / 運動療法): ストレッチ、筋力強化、バランス運動により、体の動きや機能を回復させます。

6. まとめと実践へのアドバイス
スポーツ現場における初期対応(PRICE)と、その後の治療・復帰過程(PEACE & LOVE)にはそれぞれの役割があります。ピッチ上などの初期対応では患部の保護や痛みの緩和が優先されますが、診断後は漫然とアイシングを続けるのではなく、適切な時期に正しく患部を動かしていくことが早期復帰につながります。ケガをしたら冷やして安静に!という時代は終わります。私自身、最新の応急処置を学んでもアイシングはある程度した方がいいのではないかと考えていました。ですがその場の痛みだけでなく、重症度と早く治るための過程をしっかりと考えて処置をする必要があると改めて感じました。
ケガをしてしまい痛みが強い場合や自己判断が難しい場合は、すぐに当院にご相談ください。応急処置から回復までの過程について詳しく説明しながら治療をさせていただきます。



